病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

23、前世の失敗と、その記憶(ユード視点)

「ブロムベルク辺境伯は、あの庶腹の娘しかおらぬのだ」

 侯爵が俺に持ち掛ける。

「なあ……おぬしとディートリンデの仲をわしが知らぬとは思ってはおらぬよな?」
「……俺はお嬢様のご意向に添っているだけでございます」
「おぬし、確かに女を誑かす能力に長けておるの。……その力であの娘を篭絡し、取り入って婿になれ。わしの養子にしてやる故」
「……閣下?」
 
 俺がじっと見つめれば、侯爵が言う。

「わしはブロムベルクが欲しい。あの土地も、それからギストヴァルトも」
「……俺が、婿入りすればよろしいので?」
「婿となれば次期辺境伯ぞ? ジークバルトを亡きあとは、おぬしが辺境伯だ。そうなったらディートリンデを嫁がせてやる」

 俺はディートリンデと結婚したくないので黙っていたが、さらに侯爵は脂ぎった顔を近づけて声を低める。

「おぬしは知るまい。わしはなあ、精霊王の聖杯を手にしておる。これを持つ者が世界を動かすという伝説の神器じゃ。おぬしがブロムベルクを手に入れたら、同時にわしも兵を挙げる。皇帝を追い落として、わしが帝国の主となるんじゃ」

 謀叛の計画と言うにはあまりに杜撰だが、聖杯の吐き出す毒気に当てられると、きっと人は正常な判断力を失うのだ。俺は逆らわず、侯爵のいい加減な策に乗った。
 
 セシリアの婿になれるのだ。その機会を逃すなんてありえないだろう。
< 145 / 184 >

この作品をシェア

pagetop