病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

8、言い訳と生い立ち

 わたしがメイドのモリーとの密会を指摘すれば、ユードはしばらくためらった挙句、言った。

「彼女はその――昔馴染みというか、幼馴染というか――」
「幼馴染?」
「俺たち、同じ孤児院で育ったんです」
「孤児院――」

 予想もしない発言に、わたしは目を瞠った。――そう言えば、前回、ユードの生い立ちや家族について、ほとんど知らないままだった。もちろん、父は十分に調べているのだろうが、わたしは興味がなくて聞かなかった。

「あなた、孤児院育ちだった?」
「ええ……隠していたわけではなくて、お館様もご存知です。俺の父は神聖王国の騎士で、父母は二十年前の戦争で死に、天涯孤独になって、ギストヴァルトの孤児院で過ごし、十二歳で辺境伯の騎士見習いになりました。――モリーも同じ孤児院にいたんです」

 平民とはいえ、親は騎士だと言っていた。早くに亡くしたのは聞いていたが、孤児院育ちとまでは知らなった。

「ずいぶん、ご苦労なさったのね」
 
 わたしの言葉に、ユードが苦笑する。

「過ぎてみれば、それほどでもありません。あのころ、ギストヴァルトは本当に混乱していて、俺は親戚も散り散りになってしまったので、孤児院に拾われなければ死んでいました。モリーとはもともと顔見知り……というか、孤児院に頼まれて、メイドの職を斡旋したのも、俺なんです。……以前、貴女の護衛騎士をしていた時のことです。だからまだお屋敷にいるのが懐かしくて、つい……」
 
 ユードが言いにくそうにした。

「……昨夜は貴女に拒否されてしまったので、俺が何か仕出かしたのか、その――貴女の様子を聞けないかと思って……」
「……で、収穫はあったの?」

 ユードは首を振る。
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