病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 ユードの唇に唇を塞がれしばらく深く口付けられてから、やっと解放される。
 露わになった胸には、赤い口づけの痕がいくつもついていて、わたしは唇を噛んだ。慌ててブラウスをかき寄せ、ボタンを閉めていると、ユードがわたしの腰に手を回し、ぐっと抱きしめる。

「放して」 
「いやだ……セシリア……」 
「服、直さないと」

 ユードはわたしの身体の向きを変えて机に手を突かせると、胴着(ビスチェ)をずり上げ、背中の紐を引っ張って整えていく。

「……妙に上手ね。手慣れているみたい」
「セシリア、貴女が想像するようなことは、断じてないですから」

 ユードは紐を締め終わると、再びわたしを正面に向け、まっすぐに見つめて言った。

「セシリア、どれだけ探したって、浮気の証拠なんて出てこない。……俺は浮気していないから」     
「じゃあ、浮気してないって証拠を出して」
「……それは悪魔の証明です。無理言わないでください」

 ユードはビューローの抽斗を開け、一つ一つ中を見せる。

「私信はここに入っている。……ほとんどが請求書です」

 見せられた封書の束に、わたしも納得する。ユードがもう一つの抽斗をあけ、同じような封筒の束を見せた。

「ディートリンデ様からの手紙はここにあります。全部開封していない。これで証拠になりますか?」
「やっぱり手紙来てた……!」
「でも、一通も開封していないし、もちろん、返事も書いていません」

 たしかに、すべてオーベルシュトルフ侯爵家の封蝋が壊れずにそのままになっている。
        
「捨ててしまうか迷いましたが、何が書かれているかわからないし、捨てるのも怖くて取っておいた分です。貴女が持って行って捨ててください」 
「わたしが?」
「もちろん、中を改めてもらって構わない。俺は興味がない」
「いくら何でも気の毒じゃなくて? せめて読むくらい……」   
「開封されていたら、あなたはそれを浮気の証拠だと言うでしょう?」   
  
 沈黙してしまったわたしに、ユードが胸ポケットをポンポンと叩く。

「これは、俺が持っておきますよ。好きなだけ盗聴してください。……それで貴女の疑いが晴れるなら」
  
 そう言って、ユードはわたしにもう一度口づけた。
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