病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

13、ディートリンデ様の手紙

「お嬢、大丈夫?……じゃないみたいっすね……」

 自室では、ヨルクとアニーが心配そうに待っていた。二人とも心なしか顔が赤く、もじもじしている。なんだかひどく気まずい場面に遭遇してしまったような……。
 わたしはテーブルの上の、蓋の開いた魔導スピーカーを見て、すべてを悟った。

 ――ユードとわたしのさっきの声、盗聴されてた!

 ユードの言った、「人を呪わば穴二つ」ってこういうこと……わたしは二人の顔を正面から見ることができなくなり、思わず両手で顔を覆う。
 
「大丈夫! ギリギリで止めたし!」

 ヨルクが言い訳がましく言うけれど、衝撃は抜けない。
 ユードとディートリンデ様の濡れ場を盗聴するはずが、自分の濡れ場を盗聴されてしまった!

「……木乃伊(ミイラ)取りが木乃伊になるって、こういうこと?」 
  
 ぐったりと呟くわたしを、アニーが手を取ってソファに座らせる。

「お嬢様、今、お茶をお淹れします。……あんなの、たいしたことありません!」
「そうそう、ユードの口走ってた台詞の方が、よっぽど恥ずかしいから! 俺、あんな言葉、絶対吐けない! ある意味、尊敬するわ! マジで!」
  
 わたしは手に持った未開封の手紙の束を、ヨルクの前にドサっと投げ出す。

「え、これ、さっき言ってた、ディートリンデ嬢からの恋文?」
「ええ、そうよ。わたしが見て、処分してほしいって」

 ワゴンの上で魔導瓶からティーポットにお湯を注いでいたアニーが、素っ頓狂な声を出した。
    
「やっぱり手紙来てたんじゃないですか!」
「でも開封してないし、返事も書いてないって」
「それが全部とは限らないじゃないですか!」

 アニーは手紙を受け取っていただけでも同罪だと言いたげだが、ヨルクは男性だけあって、ユードに同情的だ。

「いやこれ……こんなに手紙きてもドン引きでしょ……」

 ヨルクは封筒を一枚手に取り、丁寧に両面を見てから、封蝋を手で確かめる。
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