先生と私の三ヶ月
 オペラ座を見学した後に先生にどこか行きたい所はないかと聞かれ、これぞパリって所が見たいと答えた。先生はうーんと考え、シャンゼリゼ大通りにある凱旋門まで連れて来てくれた。

「あれが凱旋門ですね!」
 高さが50メートルもある凱旋門を見上げた。
 オーステルリッツの戦いの勝利をたたえる為にナポレオンの命令で作られ、凱旋門正面にはナポレオンが勝利する姿が刻まれている事を先生が解説してくれる。

「凱旋門を中心に放射状に道が12本延びてるんだ。上から見ると星の形にも見える事から星の広場ともよばれてる」
「星の広場ってなんか素敵なネーミング」
「ガリ子、見惚れてないで、ちゃんと写真撮っておけよ」
「はい。任せて下さい」
 私は張り切って凱旋門と広場とシャンゼリゼ大通りを先生のデジカメで撮った。そして、ふと思いついて先生にカメラを向けた。パリの街と先生がなんかしっくりくる。
「俺はいいんだよ。景色を撮れ」
 シャッターを切ると先生が苦笑いを浮かべた。
「もしかして先生、写真撮られるのが苦手?」
「知らないのか。写真を撮られると魂が抜かれるんだぞ」
 先生の冗談がおかしい。
「ぷっ。いつの時代の話ですか。ひょっとして幕末にパリに来た侍なんですか?」
「そうだ。タイムマシーンに乗ってやってきた」
 先生が気楽な感じで返してくれる。こんな冗談の言い合いが楽しい。
「ガリ子、こっちこい」
 先生に近づくと、私の手の中のデジカメを先生が掴んだ。
「お前も撮ってやる」
「えっ、私はいいですよ。ボロボロな格好だし」
「だから面白いんだよ」
 先生が問答無用でカメラを向けた。
「ちょっと、先生! あ、いきなりズルイ。もうっ!」
 先生は子どものように笑いながら、恥ずかしがる私の写真を何枚も撮った。
 そして最後に、一緒に撮ろうと言われてドキドキした。先生は私の身長に合わせて屈んでくれた。先生の顔がすぐ近くにあって、甘い匂いもして、心臓が破裂しそうになる。そんな中で先生が私たちの写真を自撮りした。きっと、私の顔は真っ赤だ。もう、やだ。絶対に先生にからかわれる。
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