先生と私の三ヶ月
 2階に行くと、長い廊下があった。
 そして廊下にはドアがいくつもあってホテルみたい。

 部屋数は一体どれくらいあるんだろう。

「葉月さん、こっちです。突き当りが先生の部屋です」
 黒田さんについていきながら、胸が張り裂けそうなぐらい高鳴っている。

 この家に望月先生がいるんだ。
 もう少しで会えるんだ。

 そう思った途端に嬉しくて泣きたいような気持ちでいっぱいになる。こんなにドキドキしたのはいつぶりだろう。

 純ちゃんと教会で挙げた結婚式を思い出した。
 純白のウェディングドレスに身を包んで、父と歩いたバージーンロードは心臓が壊れそうな程ドキドキでいっぱいだった。

 今もあの時と同じぐらいドキドキしている。

「先生、アシスタントの方をお連れしました」
 黒田さんが部屋のドアを開けた。

 黒田さんに続いて中に入ると本棚だらけの部屋に驚いた。全ての壁面に床から天井までの高さの本棚が並び、その中にはぎっしりと本が詰まっている。やっぱり作家さんは沢山、本を読むんだな。

 広い部屋の中央にはソファとテーブル。窓際には立派な机と椅子があった。
 ここで数々の名作が生まれたのかと思うと感動で胸が震える。

「望月先生?」
 返事のない事に不審に思った黒田さんが、先生の机に近づく。私の位置からは椅子の大きな背もたれしか見えない。

「あっ、いない」
 黒田さんが椅子を覗き込み困ったように頭をかいた。
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