先生と私の三ヶ月
「いきなり、ごめんなさい」
 恵理さんがハンカチを取り出して、目元にあてた。

「なんか今日子ちゃんといたら気が緩んでしまって。会ったばかりなのに、他人じゃないみたいって言うか、親近感が湧くというか」
 同じように感じてくれていたんだ。恵理さんの言葉が嬉しい。

「嬉しいです。私も勝手に恵理さんに親近感を持っています。私で良かったらどんな事でも聞きますよ。明日、日本に帰るからパリで情報漏洩の心配もありません」
 私の冗談に恵理さんが小さな声で笑った。

「今日子ちゃんって、本当にいい子ね」
「そんな事ないですよ。望月先生には融通が利かないクソ真面目だって言われてますから」
「今日子ちゃんはいい子よ」
 恵理さんがハンカチから顔を上げて笑顔を浮かべた。いい子だなんて言われたのは子どもの時以来だから、なんか照れくさい。

「このまま家に持って帰るには重たいから、今日子ちゃんに聞いてもらおうかな」
「はい。どうぞ話して下さい」
「実は私、夫以外の人が好きなの」
 胸がざわっとした。思っていたよりも深刻な打ち明け話に驚いた。
 恵理さんは緊張したように息をつき、私を見た。

「彼とは違う会社なんだけど、これから同じプロジェクトに関わる事になってしまって。それで今日の会議に彼が来たの。彼に直接会ったのは一年半ぶりで。諦めたつもりだったんだけど、やっぱり好きだなって思ってしまって」
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