先生と私の三ヶ月
 先生はまだホテルに戻っていなかった。レセプションカウンターに出掛けて来ると伝言を残して、純ちゃんとホテルを出た。

 今日子、寿司好きだろ? そう言って純ちゃんが連れて来てくれたのはホテルと同じ通りにある日本食レストラン。

 パリにも日本食のお店ってあるんだと口にしたら、純ちゃんが当たり前だろうと、呆れたような相槌を打った。和食はユネスコ無形文化遺産に登録された程なんだぞ、そんな事も知らないのか。今日子はやっぱりのん気だと笑われて、早速もやっとする。

 確かに仕事で外国によく行く純ちゃんは私よりいろんな事を知っているけど、そんな言い方ってないんじゃないの。久しぶりに会ったのに。だいたい、私、お腹いっぱいなんだけど。お寿司って言われても困る。どうしてそういう事考えてくれないのかな。

 テーブル席に座りながら、いつものように純ちゃんに心の中で言い返した。純ちゃんはマイペースな人だから、合わせるのはいつも私。私がどうしたいかなんてちっとも考えてくれない。

「もしかして、寿司って気分じゃなかったか?」
 向かい合って出された緑茶をすすっていたら、珍しく純ちゃんが私の顔色をうかがった。

「うん。もう夕飯食べたから」
 普段だったら、そんな事ないって気を遣うけど、疲れていて面倒になった。

「じゃあ、出るか」
「いいよ。出るのも面倒だから」
「今日子、なんか怒ってるか?」
「別に。疲れているだけ」
「そうか」
 純ちゃんが困ったようなため息をつき、気まずそうにメニューを眺めた。
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