先生と私の三ヶ月
「なんで今その話?」
「いや、あの時パリに新婚旅行に行っていたら、僕たちもテロに巻き込まれていたかもしれないと思って」
 純ちゃんがハッとしたようにこっちを見た。

「ごめん。変な事を言ったな」
「いいよ。別に」
「今日子、怒った?」
「怒ってないよ」
 ソファに座ってミネラルウォーターを飲んだ。昨日も飲みすぎたけど、今夜も飲みすぎた。ビール、ワイン、日本酒と立て続けに飲んで眠くなって来た。

「今日子、ごめんな」
 さっきよりも弱々しい声で純ちゃんが言った。

「僕はいい夫じゃないよな」
 どうしたんだろう。そんな事言うなんて。

「流産した時だって、今日子のお父さんと、お母さんが亡くなった時だって、そばにいてやれなかった」
「出張中だったんだから仕方ないよ」
「いや、断るべきだったんだよ。二度目の流産の時、僕が一緒にいたらもっと早く病院に連れて行けた。処置が早かったらあんな悲しい事にはならなかったかもしれない」
 私が子どもが産めない体になったのは処置が遅れた事もあった。その事を純ちゃんが気にしていたなんて。

「でも、今日子が死ななくて本当に良かった。生きていてくれてありがとう」
 驚いて純ちゃんを見ると、ベッドに座ったまま弱々しく微笑んだ。今までそんな優しい事言ってくれた事なかった。純ちゃん、急にどうしたの?
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