先生と私の三ヶ月
「純ちゃん、いきなりどうしたの? 何かあった?」
「何もないよ。ただ今日子に悪いとずっと思っていたから。こういう時じゃないと言えないだろ」
「こういう時?」
「日常からちょっと離れた時だよ。家だと照れくさくて言えないんだ」
 気まずそうに頬をかいた純ちゃんを見て、意外な気持ちだった。5年一緒に暮らしてきたけど、そういう面もあったんだと初めて知った。

「今日子、上海出張が終わったら、久しぶりに旅行でも行くか。今日子が行きたがっていた北海道はどうだ? 函館山ロープウェイに乗りたいと言っていたじゃないか」
 せっかく少しだけいい気分になったのに、その言葉を聞いて落胆した。純ちゃん、誰かと間違えている。私、北海道に行きたいなんて言った事ない。函館山ロープウェイって何? そもそも高い所苦手なんだけど。きっと純ちゃんの好きな人は高い所が好きなんだね。彼女と間違えているんだね。

 もう純ちゃんのバカ、知らない。喜ばせておいて、落ち込ませるなんて酷い。
 
 純ちゃんと顔を合わせていたくなくて、ゴロンとソファに横になった。

「そんな所で寝たら風邪ひくぞ」
 純ちゃんが近くに来た。
< 156 / 304 >

この作品をシェア

pagetop