先生と私の三ヶ月
「ガリ子、大丈夫か!」

 すぐ近くに息を切らした黒スーツ姿の先生が立っていた。
 先生の顔を見た瞬間、ほっとして涙が滲んでくる。

「いきなり何するんだ!」
 床に転がった純ちゃんがソファ前の先生を睨んだ。

「それはこっちのセリフだ。こんな事してただで済むと思うなよ」
 先生が純ちゃんから私を隠すようにして立った。先生の黒スーツの背中が盾みたいだった。思わず、ジャケットの裾をぎゅっと握りしめた。

「他人に言われる筋合いはない。妻に何をしようが僕の自由だ。出て行け!」
 僕の自由……。私は純ちゃんに何をされてもいいの? カアッとお腹が熱くなる。

「無理矢理、妻を抱くなんてカッコ悪い男だな。わかった。警察に行こう。どちらに正義があるかわからせてやる。この、ベストセラー作家の望月かおるが申し立てるんだから、マスコミが騒ぐだろう。あんたの上司にも知られるだろうな。妻にDVをふるう男だって。確かあんた大企業にいるんだろう? そういう社員を抱えているって、世間で叩かれるだろうな」

「脅すのか?」
 焦った純ちゃんの声がした。

「脅しじゃない。本当にやる。まずは警察だ。パリ市警に知り合いがいる。彼に聞いてもらおう。今の内に弁護士を呼ぶか? 大企業だから腕利きの弁護士を派遣してくれるだろうな。しかし、会社にDV男だと知られてしまうな」

「今日子、何とかしてくれ。誤解だって小説家の先生に話してくれ」
 純ちゃんが立ちあがって、こっちに来る。思わずビクッと肩が震えた。

「近づくな!」
 先生の怒声が再び響いた。
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