先生と私の三ヶ月
 ガラス戸を開けると、サンルームらしき場所に出た。サンルームはガラス張りで、電灯に照らされた幻想的な庭の風景を見る事が出来た。思わずその眺めに目がいく。照明に浮かぶ木々と濃紺の空に浮かぶ月が美しい。

「誰だ?」

 男の人の警戒するような低い声がした。
 黒田さんの声じゃない。

 振り向くと仄かな月明りと庭の電灯に照らされた男性の姿が浮かぶ。男性は籐の長椅子にゆったりとした雰囲気で座り、長い足を組んでいる。

 襟のあるシャツに黒っぽいズボン姿で、やや細身の体型だ。
 望月先生の家族? もしかして旦那さん? でも、確か先生は独身だったはず……。

「あんた、口が聞けないのか?」
 ぶっきら棒な言い方にムッとする。

「ちゃんと話せます。私は望月先生のアシスタントの面接に来た葉月今日子です」

「ああ」と男が立ちあがり、近くに来る。
 黒田さんよりも背が高い。私の頭は男の首ぐらい。180㎝以上はありそう。純ちゃんがそれぐらいだからわかる。

 ふわっとコロンと煙草が混ざったような匂いがした。男の人の匂いだと思った時、心臓がぎゅっと縮んだ。黒田さんに会った時はそんな事感じなかったのに。
 
 直観的にこの人と関わってはいけない気がする。取り返しのつかない所に連れて行かれそうな、そんな不安な気持ちになる。
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