先生と私の三ヶ月
【Side 望月】

 自業自得、身から出た錆、因果応報……。
 それらの言葉の意味を今、実感する。

 ガリ子を好きだと自覚したあのパリの夜から、ガリ子を目にすると心のタガが外れそうになる。唇にキスはしないと言ったが、抱きしめるとキスしたくなる。なんであいつはあんなにいい匂いがするのか。抱き心地もいいし、毎回、驚いたように俺を見つめる表情が可愛い。

 ミイラ取りがミイラになんて表現もあったな。
 まさかこの俺が、ここまでガリ子に心を奪われるとは……。

 書斎の窓から庭を見下ろすと、ガリ子と真奈美がビニールプールを広げている。流星の為に水遊びを始めるんだろうか。

「先生、いいですよ。パリの夜!」
 黒田が書き上げたばかりの原稿をテーブルの上に置いた。

「ヒロインが恋に落ちた瞬間がとてもリアルに描かれていて、なんかキュンとしました」
 黒田の言葉にほっとする。そうか。これは胸がキュンとするのか。
 小説に限って言えば黒田が一番信用できる。黒田のダメ出しは容赦ないが、いい時はべた褒めをする。そうやって黒田が褒めた小説は必ずヒットした。どうやら望月かおるの復帰作としてふさわしい出来になりそうだ。

「この小説で先生は再び文壇で脚光を浴びる事、間違いなしです! またドラマ化、映画化の話がバンバン来ますよ」
 黒田が嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「そうだといいな」
 黒田の言うようになればいいが、手放しでは喜べない。この小説のモデルはガリ子なのだから。俺は酷い奴だ。ガリ子の旦那がガリ子を襲った事も小説に書いてしまった。登場人物の名前や所属している会社名などは変えているが、当事者が読めばこれは事実が元になっていると気づくだろう。

 きっとガリ子はこの小説を読む。その時、ガリ子は俺に裏切られたと怒るだろう。そして俺はガリ子に嫌われる。

 胸が痛い。
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