先生と私の三ヶ月
 リビングからサンルームに出て黒田に電話をかけた。

「先生、どうされました?」
 長いコール音のあと黒田が出た。少し声が慌てている。取り込み中だったか。

「すまん、黒田。ちょっと聞きたい事があってな。今、いいか?」
「今ですか。少々お待ちください」
 黒田がどこかに移動する気配がした。

「どうぞ」
「上原って子を知っているか? 大学生の子で俺のアシスタントをしていたらしいんだが」
「今は編集部でアルバイトをしていますよ。今日、葉月さんが来た時、応接室にお茶を持ってきました」
 なるほど。その時にガリ子は上原って子に会ったのか。

「もしかして何かありました?」
 黒田が気まずそうに聞いた。
「黒田。お前、何か知っているのか?」
「いや、その……」
「その、なんだ?」
 あははと黒田が誤魔化すように笑った。
「黒田、正直に言わないと小説は書かんぞ」
「せ、先生! それは困ります! あの、怒らないで下さいよ」
「さっさと話せ」
「私、余計な事を上原さんに言ってしまって」
「余計な事?」
「先生がアシスタントと一緒にパリに行っていたと軽い雑談の中で話してしまって。でも、マズかったと、あとで気づきまして」
「何でマズイんだ?」
「先生、上原さんの事覚えていないんですか?」
「全く」
「先生を襲った子ですよ」

 あっ……。
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