先生と私の三ヶ月
――好きだ。

 先生の声が頭の中で何度もリピートする。
 普段の先生よりも、柔らかくて優しい声だった。

 ただの寝言なのに頭から離れない。
 おかげであまり眠れなかった。
 あんな風に優しい声で好きだって純ちゃんにも言ってもらった事はない。なんか、ちょっぴり寂しい。

 ひなこさんって望月先生の恋人なのかな? いいな。あんな風に先生に好きだって言ってもらえて。

――好きだ。

 甘い声だったな。

「ガリ子、聞いてるのか?」
 キッチンのシンクをクレンザーで磨いていると、先生の苛立ったような声がした。

「昼飯だと言っているだろうが。突っ立ってないでさっさと用意しろ」
 ダイニングルームの方を見ると、水色の襟のあるシャツにジーパン姿の先生が新聞を脇に抱えて、こっちを睨んでいた。

 なんか不機嫌そう。もしかして寝起き?
 先生、寝起きは不機嫌なんだよね。そういう所、子どもみたいで面白いけどさ。

 もう12時か。先生、メモ通りお昼だから起きたんだ。

「今、用意します」

 ちらっとキッチンからダイニングの先生を覗くと、椅子に座った先生は新聞を広げていた。新聞を読んでいる鼻筋の通った横顔が今日も麗しい。

 先生って性格は悪いけど顔だけはいいんだよね。
 毎日イケメンと一緒って目の保養にはなるな。先生の年は40歳だから美中年というのかな。
 
 そう言えば先生、顔出ししてないのはなんでだろう?
 絶対に女性ファンが増えると思うんだけどな。

「何だ? 俺の顔に見惚れてるのか?」
 新聞の方に視線向けたまま先生が言った。
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