先生と私の三ヶ月
 入口を通って島に入ると、あずき色の看板が目についた。英語でホテル、レストラン、バーと書かれ、その下に店名らしき文字がリストのように並んでいた。一つずつ確認すると、先生が滞在しているホテルの名前があった。

 恵理さんの情報に間違いはなかった。先生はこの島にいる。

 駆け出したい気持ちを抑え、前を歩く人たちの歩調に合わせて、石畳の歩道を進んだ。赤いサンシェードが可愛いレストランの前を通り、すぐそばの王様の門を抜けると、中世の街並みがあった。魔法使いとか騎士が歩いていそうな雰囲気で、テーマパークに来たみたいだ。

 ガイドブックによると、その通りはメインストーリートで、バーとか、レストランとか、両替屋さんとか、お土産物屋さんとかが道の両側にズラリと並んでいた。先生が泊まっているホテルも同じ通りにあるようだった。

 あともう少しで先生に会える。

 初めてステージでピアノを弾いた時みたいに、ドキドキして来た。
 4歳の時、初めてピアノの発表会に出た。順番を待っている時は緊張したけど、ステージの立派なグランドピアノを弾いている時は楽しくて仕方なかった。緊張と嬉しさが混ざった今の気持ちは、あの時の気持ちに似ている。

 それにしても、ここは何もかもが素敵だ。島の頂上のライトアップされた修道院も、夕焼けに包まれた中世の街並みも、日本より湿度のない風も、通りを歩く人たちも。全てが魔法にかかったみたいにキラキラしている。歴史あるこの中世の街は訪れる人々を幸せにしてくれる力があるのかもしれない。

 そんな事を考えながら歩いていると、青い看板が目に入った。

 あ、あった。

 先生が泊まっているホテルだ。
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