あなたの妻になりたい
「ランバルト様も、共に夕焼けを見ませんか?」

 だが、彼女がこのように誘ったとしても、この仮夫が彼女のそれにのった試しはない。ランバルトと共に時間を過ごすことができて嬉しいと思っているのもマイリスだけで、きっとこの仮夫にとってはどうでもいいことなのだろう。

「少し風が出てきた。身体が冷える前に、中に入りなさい」
 事務的にそう声をかければ、ランバルトは踵を返し、夕日を背に浴びながら部屋の中へと戻っていく。だが、マイリスはその仮夫の背を見送ることなく、彼に背を向けて街並みを見つめていた。マイリスの銀髪は風に弄ばれて、はらはらと揺れている。
 今日も仮夫であるランバルトは、隣に並んで立つことさえしてくれなかった――。

 ここにいるマイリスはランバルトの仮妻(かりつま)と呼ばれる存在であり、マイリスとランバルトは仮婚(かりこん)と呼ばれる状態の二人。
 プレトニバ王族はなかなか子宝に恵まれないと言われている。だから王族の婚姻は、仮婚と呼ばれる期間を設けている。
 仮婚期間の夫婦はそれぞれ仮夫と仮妻と呼ばれ、この仮婚期間に子を授からなければ、二人の縁は無かったことにされる。その後、仮夫は新しい仮妻を迎えるし、お役目を終えた仮妻は、他の男性の元へと嫁がされる。嫁ぎ先候補もそこそこいい家柄の者が名を連ねていると聞いている。というのも、その嫁ぎ先も王族の仮妻を娶ったということは一つのステータスになるからで、仮婚が失敗に終わったという噂を聞き付ければ、我こそはと仮妻を求めるのである。

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