鍵の皇子と血色の撫子
 期待してはいけないと理解していても、約束の日が近づくにつれて撫子は心を躍らせてしまう。親同士が決めた婚約者でありながら、彼に恋してしまった自分は。

「鍵の皇子に似合う女性になりたくて、頑張ってきましたけど……」

 自分は彼に見合うだけの姫君になれただろうか。
 あれから十年、撫子は聖岳の妃として迎えられる手はずになっている。
 けれど、彼からしたら自分は釣り合わない存在かもしれない。
 国の鍵と呼ばれ、次期帝の座にも近い聖岳が将来的に有利になるよう定められた女性が、神官一族から派生した公爵家の娘である撫子だったというだけ。神官一族ゆえ、先祖のなかには神皇帝を導いた魔術師もいるが、撫子本人が扱える能力はなかった。
 それでも幼い頃から偉大な魔術師の末裔である公爵家の娘として、周りから畏れられていた撫子はその威光を利用しようと画策した。あの事件が起きたことで、それは決定的なものとなる。
 もしかしたら聖岳も得体のしれない婚約者だと距離を置いているのかもしれない。それでもお互い婚約を破棄できないでいることが、こたえのような気がする。
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