恋をするのに理由はいらない
 昨日遊びにきた水族館の隣にあるホテル。その1階のラウンジで、私は一人溜め息を吐いていた。

 やっぱり……、伯父様は違うって言ってたけど、これってお見合いなんじゃないの?

 今更、ここまで来てそんなことを思い窓の外の景色を眺めた。

 川村の家で渡されたのは、どう見てもお見合い写真と身上書だった。私は慌てて『お見合いなら会いません』と口にしていた。その理由を問われたら、はっきりと言えないのに。
 でも伯父は『お見合い、と言うわけじゃないんだが、先方がどうしても澪に会ってみたいと言ってきてね。私の顔を立てると思って一度会ってみてくれないか?』と、私に頼んできたのだ。
 日頃からお世話になっていた伯父の頼みを無碍に断ることもできず、私は仕方なく了承した。

 相手は国内有数のスポーツ用品メーカーの関係者。スポーツ選手なら知らない人はいないだろうし、私もたくさん商品は持っている。それに、ソレイユでもお世話になっていた。

 もしかしたら、本当に会って話をしてみたいだけ?

 そんなことをあれこれ考えていると、スタッフに連れられスーツ姿の男性がやってきた。

「お待たせして、申し訳ありません」

 そう言って笑みを浮かべるその人の顔を見て、私はあれ……? と思う。
 『どこかでお会いしたことありましたか?』と聞きそうになり口を噤んだあと、一呼吸置いて口を開いた。

「……いえ。初めまして。枚田です」

 とよそゆきの顔をして。
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