恋をするのに理由はいらない
10
 社長はあとで来ると通された客間。俺はまず、そこにあった棚の中に釘付けになっていた。
 数々のトロフィーや盾。古いものは澪が小学生のころのものだ。最近のものは、俺も知っている、去年リーグでMVPセッターに選ばれたもの。そして、一番目を引いたのはやはりこれだった。

「オリンピックのメダル……。すげぇ……」

 3年前、日本がもぎ取ったメダル。目の前で見るのは初めてだ。

「かけてみる?」

 澪は軽くそう言うとガラス戸を開けていた。

「え。いや、いいって!」

 こんな大事なものを気軽に身につけられるわけねぇ、と慌てて断ると、澪はケースを取り出しながら言った。

「そう? 見に来た人たち、すぐにかけさせてって言うんだけどな……」

 よくまぁ、軽々しくそんなこと口にできるな、と見たこともない奴らに苛立ちを覚える。どれだけの苦労してこれを手に入れたか。俺だって現場にいたわけじゃないが、ずっと試合を追いかけ続けたからか、自分のことのように感じてしまう。

「俺は……お前が付けたところ、もう一回見たい」

 澪がメダルをかけている姿は、画面越しでしか見たことがない。あれから3年経って、本人にそんなことを願えるなんて思いもしなかった。
 
「じゃあ……。一矢がかけてくれる?」

 ケースから取り出したメダルを、澪は俺に差し出し、俺は恐る恐る受け取った。そして、思っていた以上にズシリとするメダルをゆっくり澪の頭からかけると、澪は恥ずかしそうに顔を上げていた。
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