恋をするのに理由はいらない
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 その後、順調に……とはいかなかったけど、慣れない料理以外の仕事に悪戦苦闘しながらも1か月が過ぎ、2か月目も過ぎようとしていた。

 私はとある家の前に着くと、インターフォンを鳴らした。

「はーいっ!」

 勢いよく玄関が開くと、中から元気の良い声とともに変わらない笑顔が現れた。

「久しぶり。萌」
「澪さーん! いらっしゃーい!」

 抱きつかんばかりにそう言うと、萌は私を中に促した。

「って、戸田さん?」

 通されたリビングのソファには、寛いだ様子の戸田トレーナーが座って手を振っていた。

「澪、いらっしゃい」
「いらっしゃいって……。えっ?」

 まさか……この2人が?

 驚いたまま突っ立っていると、お茶を入れた萌がトレーを持ってやってきた。

「今日は"紹介者"として一緒に話を聞いてくれるって」
「そうそう。萌が変な契約を結ばないように紹介者として責任あるしね?」
「……変なって。面白がってるだけでしょう?」

 溜め息を吐きながら私はローテーブルの前に座る。ソファはそんなに大きくなく、さすがに戸田さんの横に座るわけにはいかない。

「にしても澪さん、聞きましたよぉ! 金さえ積めば澪さんの美味しいご飯が食べ放題って!」

 私の斜め横に座り、萌はニコニコしながら明るい声を出す。

「食べ放題ではないから……」

 呆れながら私は萌に返す。いったい戸田さん(紹介者)から何を聞いたのやら。

 私の始めた料理代行サービス。
 身内と言っていいような相手にだけ行っていたそれも、次のステップに移った。
 そして一矢が連れてきた最初の顧客は、戸田さんのご実家だった。そこから口コミ、と言っていいのかわからないけど、是非うちも、と熱望したのが萌だったのだ。
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