恋をするのに理由はいらない
 にわかに騒がしくなったキッチンに、最後の1人、いや2人が現れる。

「創一。お前、自分の子ほったらかしにすんな。起きたぞ?」

 一矢の腕に抱えられているのは、創と与織子ちゃんの息子、未来(みらい)君。生後5ヶ月の可愛い盛りの甥っ子は、全く危なげなく一矢の腕に収まっていた。

「一矢がいるから大丈夫だと」
「そうそう! いっちゃん、子育て歴長いから!」

 創と与織子ちゃんは口々にそう言った。

「当たり前だろ。与織子と逸希と理久のオムツ換えも、風呂に入れるのだってしてたしな」

 与織子ちゃんの言う通り、一矢は本当に子育て慣れしていた。
 思いがけず生まれた双子の育児にあたふたしていたのは私で、一矢はいつも余裕で助けてくれていた。だからこそ乗り切れたんだと思う。

「みんな、お皿とご飯運んで? 優と凌は自分のを運んでね」

 双子たちにそれぞれ専用の割れない食器を渡すと、嬉しそうに走って行く。

「創も、未来君は一矢に任せて手伝って」

 用意していた取り皿やお箸、おかずの一部をトレーに乗せると、有無を言わさず創に渡す。

「私もこれ運びます」

 まだ残ったおかずを与織子ちゃんが持つと2人はキッチンをあとにした。

「俺もなんか運ぼうか?」

 未来君を抱っこしたまま一矢は私の元にやってくる。まだ眠そうな顔で抱かれた甥っ子は、私たちの顔を見上げていた。

「可愛いな。やっぱり」

 伯父というより、もう孫を見るおじいちゃんみたいな顔で一矢は言う。

「一矢って、本当に子どもが好きだよね」
「まぁな」

 意外ではなかったけど、一矢は想像以上に子どもたちを可愛がってくれるいいお父さんだと思う。

「これなら、もう一人増えても安心だな」

 未来君の顔を覗き込み笑いながらそう口にすると、一矢は一瞬間を置いてから顔を上げた。

「……って、マジ?」
「うん。マジ」

 私の答えにみるみる顔を緩めると、照れたように顔を逸らした。

「やべ……。むちゃくちゃ嬉しいんだけど……」

 本当に可愛いんだから……

 バレーしか知らなかった私に、たくさんの違う世界を、新しい世界を見せてくれた人。
 私は何度でもこの人に恋をするだろう。

 だって、恋をするのに理由はいらないのだから。


 Fin
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