恋をするのに理由はいらない
「おっ! 美味(うま)そうじゃね? 手作り?」
「なっ、勝手に見ないでくれる?」
「いいだろ? 減るもんじゃないし。つか、これくれよ!」

 ダメという前に、私のお弁当から卵焼きを摘むとあっという間に口に放り込む。

「あっ! あなたね!」

 私が抗議の声を上げても、全く気にすることなくソイツはニカッと少年のように笑った。

「すっげえ美味い!」

 人のご飯を断りもなく食べるようなこの生意気な男。
 所属チームの親会社、旭河(あさひかわ)の広報部社員、朝木(あさぎ)一矢(いちや)。年は私の一学年下。26、いや、もう少しすれば27になるはずだ。

「こんな美味い飯食えるお前の結婚相手は幸せだろうな。すっげえ太りそうだけど!」
「うるさいな。嫌味?」
「あぁ。悪りぃ悪りぃ。付き合ってる男、いないんだっけ」

 わざとらしくそう言って、屈託のない笑顔を見せる一矢の、精悍で整った横顔を私は盗み見た。

 本当に。バカか、コイツは。年下のくせに遠慮がなくて、生意気で、日本有数の大企業に勤める男とは思えない。

 でも、バカは私もだ。

 こんな男を……好きになってしまったのだから。

 いつから……? わからない。
 どこがいいの……? わからない。

 だって、人が恋をするのに、理由なんていらないのだから。
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