恋をするのに理由はいらない
 澪と出会って、7年が経とうとしている真夏がやってきた。"あのとき"の熱狂を思い出すような暑い太陽は沈んでも、まだまだ気温は下がりそうにない夜が続いている8月。

 澪と付き合いだし早くも1ヶ月半になる。ようやく明日から夏休み。あれもこれも仕事を終わらせておこうと欲をかき、今日も盛大に残業してしまった。

「遅くなっちまったな」

 マンションのエントランスで腕時計を確認すると22時を回っている。部屋の前に着きインターフォンを鳴らすと、しばらくして扉が開いた。

「いらっしゃい」

 風呂上がりなのか、Tシャツにハーフパンツ姿で、肩にタオルを引っ掛けたまま澪は笑顔で言った。

「そこはおかえりって言ってほしいんだけどな」

 俺も笑顔を返しながら言うと、照れ臭そうに頬を染め、「おかえり……」と小さく口にした。

「ん。ただいま」

 こんなやりとりをしているが、ここに来るのは日曜の夜以来で、平日は来れていない。けれど、週末には泊まっていくようにはなった。

 だからと言って、深い関係になったかと言うとそうではない。残念ながら、同じベッドで寝るだけの清い関係。自分でも驚くが、まだキス止まりだ。なんせ、付き合い始めて1週間目に初めてしたキスに、澪はガチガチに緊張していたから。

 高校生相手にしてるみたいだよな

 そう思いながらも、俺はそれなりに今の関係を楽しんでいた。
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