破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 でも、それは決してクレメント一人だけが、悪い訳ではない。私だって、嫌われることを恐れてばかりでなく、きちんと自分の意志を彼に伝えるべきだった。

 だから、彼とした初恋は最初から終わるべきものだった。私は若くて、恋愛の何たるかもまったく知らなくて。

「……危険な場所に一緒に行ってくれて、ありがとう。それに、命も助けて貰って本当に感謝をしています」

 お礼を言って背の高い彼を見上げると、クレメントは変な表情にはなっていた。何度も助けて貰った私としては、特に何かおかしな事を言ったつもりはない。危険な場所に同行して貰った護衛対象者からの、彼への心ばかりの感謝。

「いや。あれは俺にとっては仕事だから……礼は別に言わなくて良い。薬が手に入って良かったな。早くランスロットのところに、行ってやれよ」

「うん」

 微笑んだ私がくるりと身を翻し、客室がある二階へとすぐ傍にある階段を登ろうとした。でも、出来なかった。すぐ後ろに居た彼に、手首をいきなり掴まれたから。

「……クレメント?」

「ディアーヌ……」

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