破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 自らの腕の中にある、戸惑っている私の顔を見下ろす顔は無表情だ。けど、なんだか怒っているような気もする。こうしてとっても間近で、まじまじと見ないとわからない程の気配だけど。

「すみません……勝手に」

「そうではなくて……あの、扉が開いてて……」

 先程強い力で引き寄せられた私が立っていたのは、誰でも通ることの出来る廊下だった。今は彼の部屋の中とは言え、私が入ってきた扉は開きっぱなし。偶然に通りがかった誰かが、通りすがりに見ることも容易に可能だと思う。

「気になるのは……扉で。僕が勝手に、貴女を抱きしめたことではなく?」

 ランスロットは、私が気にしていることに対し不思議そうだった。むしろ不思議そうなのが、不思議だった。

 彼のような素敵な男性に好かれて、こうして抱きしめられるような展開は、乙女と自称する全員が望んでいると言っても過言ではないかもしれない。もちろん、個人の好みはあることは理解しているので異論は認める。

「そうです。扉です。あの……とりあえず、閉めて貰って良いですか?」

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