破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「ディアーヌ嬢。いえ。ディアーヌ。ありがとう。貴女を、傷つける原因となった僕を……受け入れてくれて、ありがとうございます」

 そうして、彼は私にキスをした。氷の騎士なのに、唇は温かくて冷たくない。何度か啄むように柔らかな唇が当たり、当たり前のような顔をして濡れた舌が口中に滑り込んで来た。

 彼と舌を擦り合わせながらランスロットがこんな手慣れた様子だったのは、少し意外な事ではあった。

 彼は群を抜いて整った顔を持っているのはわかっているけれど、私の手を取る時も緊張で震えていた。だから、異性に慣れていないのかと思い込んでいた。

 どうも、大きな勘違いだったみたい。

 キスを続ける水音が部屋に響いて、あまりの気持ち良さにだんだんと頭がぼうっとして来た。完全に彼とのキスに夢中になっている私は、このままいくと初夜まで純潔を保つのは難しそう。

 心の中では説教くさい誰かが、しっかりしなさいと檄を飛ばす。けど、甘い期待に抗えなくて彼を突き飛ばせない。

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