破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 そんな風に突っかかってくる人は、一様に大人っぽい綺麗な人が多かった。だから、時々不思議ではあった。クレメントはどちらかというと子どもっぽい容姿の私を見初めた境に好みが変わったのかと思っていたけれど。

 今踊っている女性を見れば、どうやらそういうことではなかったらしい。

「……ディアーヌ嬢。そろそろ」

 無表情が崩れないままのランスロットもくるりと回った時にクレメントの姿を認めたらしく、曲の切れ目にここから早く離れようとそれとなく声を掛けてきた。私は彼の申し出に賛成の意を込めて、小さく頷く。

 好奇心に溢れる視線も、そこら中に数え切れないほどあったから……きっと気を利かせた誰かが彼の耳にも入れてはいるとは思うけれど、実際に私が彼と二人で居るところをクレメントが見れば絶対に良くない事が起きそうな予感しかしない。

 曲の境目にさりげなく彼が私の手を取って、二人でダンスフロアを抜けようとしたところで、あまり聞きたくなかった低い声が聞こえた。きっと、同じような時に私たちに気がついて自分と踊っている相手を置いてでも、こちらに向かってきたんだと思う。

 そういう人だから。

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