破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
「ディアーヌ。なんで、ライサンダー公爵令嬢が、王太子妃に決まった事を俺に言わなかった?」

 別れる前まで甘い言葉を沢山くれたはずの低い声は、ひどい傷が沢山ついているはずの心には恐れていたより響かなかった。

 その内容が、奈落の底に思える程に最低だったからかもしれない。自分の利になる事には目ざとい、現金な人だとはわかってはいたけれど。

 それでもじくじくと疼く心の痛みを、見て見ぬ振りは出来ない。だって、私はこの人の事が確かに好きだった。

 この大広間は、とても広い。王族でしかも次期王になることが確実な王太子開催の夜会のために、招待客は数多い。逐一気をつけて居れば、避けたい誰かと顔を合わせずに済むほどに。

 会わずに済めば、それが一番良かったんだけれど……もし、クレメントと会ってしまえば、王太子妃となるラウィーニアの事は言われるだろうなと思ってはいた。

「……ボールドウィン様。申し訳ないけれど、ハクスリー伯爵令嬢と呼んで貰えるかしら? だって、私たち。そんなに、親しくはなかったでしょう?」

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