夢の中だけでもいいから私に愛を囁いて

卓人さんは出張後、しばらくは忙しかったようで家に来ることはなかった。

それを寂しく思うけど、正直今はどんな顔をして会えばいいのか分からなかったので、プライベートで会わずにいられることが救いでもあった。

「あんなに早く帰ってきて…って思っていたのにな…」


仕事が落ち着いたところで、京子にお線香をあげに桂木家に行くと久しぶりに乃愛が出迎えてくれた。

ここのところ桂木家を訪ねると乃愛は予定があるとかで不在なことが多く、プライベートで会ったのはアメリカへ出張する前だった。

「いらっしゃい。卓人さん」

職場で「部長」という役職名で呼ばれることが多いせいか、名前で呼ばれると特別な感じがして気分が良い。

ここでの乃愛と過ごす時間を大切にしたいと思っていたのだが、最近すれ違うことが多くて寂しさを感じていたため、今日は会えて自然と心が弾んでしまう。

この家に通い始めたのは京子に会いに来ることだったのだが、今では乃愛と会って話すことが目的にもなっていた。
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