「仕事に行きたくない」と婚約者が言うので
「こちらです」
 ヘラルダは手を伸ばして、マンフレットの口元についていたクリームをハンカチで拭う。

「ありがとう、ヘラルダ。そういえば、ヘラルダは食べないの?」

「私、味見をしていたらお腹がいっぱいになってしまいまして」
 そう答えるヘラルダは、先程から紅茶しか飲んでいない。
 味見をして、というのは嘘ではない。だけど、違うことで胸もいっぱいだった。それは先ほど目にしたマンフレットの姿。
 今のマンフレットと、騎士団として仕事をしているマンフレットと。

「そうか」
 と答えるマンフレットは少し寂しそうにも見えた。
「ヘラルダは、お菓子が作るのが本当に上手だよね」

 マンフレットのその言葉には笑顔で返す。そうすると、彼も嬉しそうに笑顔になるからだ。

「あぁ、お腹が膨れてきたからかな。眠くなってきちゃった」

「きっと訓練でお疲れになられたのですね。お夕食までに時間もありますから、少しお休みになられますか?」

「うん、そうする」

 マンフレットは立ち上がると、ソファの方へ移動した。

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