「仕事に行きたくない」と婚約者が言うので
 その言葉を聞いて、ヘラルダは胸がズキリと痛んだ。だが、今なら聞けるような気がする。彼が素直になって、仕事に行きたくない理由を教えてくれたから。だから自分も、聞いてみたい。

「マンフレット様は、どうして私をお望みになられたのですか?」

 ずっと聞いてみたかったこと。なぜ彼は、自分よりも六つ年上の女性を望んだのだろうか。ヘラルダが素直になれなかった理由も、この年の差が原因。

「どうして? ヘラルダは変なことを聞くね。それは、ヘラルダがヘラルダだからだ。君はもう、忘れてしまったのかい?」

「何を、ですか?」

「十年前の剣技会。君も、見に来ていたよな?」

 十年前の剣技会。それはヘラルダにとって、忘れたくても忘れることのできない悔しい出来事。
 剣技会とはこのティンホーベン国で年に一回開催されている、剣の技術を競い合う催しもののこと。近隣諸国からも関係者を招待し、派手にそれがお披露目されている。

「あのとき、君と出会えたから。僕は強くなることができた。味噌っかすの第三王子と呼ばれようが、そう言われないだけの実力をつけようと、そう思えることができた」

 ヘラルダには記憶が無い。あのとき、マンフレットと出会ったという記憶が。

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