大蛇の花嫁
「我たちが住んでいる屋敷と、ここでの時間軸は全く違う。桃は三年しか時が経っていないと思っているようだが、この世界では実に何百年も経っている。この国は発展し、多くの異国と交流するようになったんだ」

桃の顔が真っ青になっていき、体は震える。もうこの世界に自分を知っている人はいない。何も知らないまま屋敷で生活している間に、両親は亡くなり、町も消えてしまった。ただ絶望することしかできない。

「案ずるな。お前には我がいる。我は桃の命が尽きる時までそばにいると誓う。お前の夫なのだから」

「オロチ様……」

初めて彼の名前を桃は呼んだ。そして、いつの間にか離していた腕をもう一度伸ばし、縋るように抱き付く。

「ああ、やっと堕ちてくれたか。待っておったぞ」

オロチは嬉しそうに言い、少々乱暴に桃の唇を奪う。桃は抵抗することなくそれを受け入れた。彼のそばにいる、それしか桃の生きる道はないからだ。

こうして、恐ろしい大蛇は愛する人の心も手に入れることができたのだ。





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