初恋の記憶〜専務、そろそろその溺愛をやめてくださいっ!〜
ジト目で専務を見上げれば、
「可愛いんだから別にいいじゃないか」
と、極上な笑みと共に頭をポンポンされた。
「っ、っ!!」
と、ときめくもんかっ!
か、勘違いするもんかっ!
嫌でも逸(はや)る胸をぎゅっと押さえながら専務の後ろをついて行った。
店内に入った途端に感じる日本の夏の「涼」。
一枚板のカウンターや椅子からはヒノキの香りがふわりと香って、少しだけ開いた窓から流れ来るそよ風に風鈴が心地良く揺れて涼やかな音色を奏でる。
全体的に和モダンな造りの店内を、季節の花をふんだんに使った生け花がその雰囲気を更に華やかに引き立てていた。
「いらっしゃいませ、各務さま。お待ちしておりました」
淑(しと)やかな和服美人が専務を迎えた。
「お連れ様も、ようこそおいでくださいました。さ、こちらの席へどうぞ」
和服美人さんがわたしが座る椅子をスッと引いてくれて慌てて座ったら「ゆっくりお座りになっていいんですよ」と柔らかく笑ってくれて、その笑みでわたしは少しだけ肩の力を抜くことができた。