初恋の記憶〜専務、そろそろその溺愛をやめてくださいっ!〜

「もう帰るのか?…もっと居たらいいのに」

「っっ!」

まるで大切なものを自身の腕の中に仕舞い込むかのようにバックハグされ、更に耳元で甘い声で囁くものだから、わたしは反射的に身をよじる。

「専務っっ、いい加減にして下さいっ!怒りますよっ!」

「君にならどれだけ怒られても嬉しい」

…いま、物凄いドM発言を耳にした気がする。

なんか、変に意識するのも抵抗するのも馬鹿らしくなってきた。

フッとわたしが脱力すると専務はわたしの正面に回って改めて抱きしめてきた。

「君、恋人や好きな人はいるのか…?」

「…好きな人なら、います」

12年会ってないけど。

ピクリと一瞬専務が硬直したことも気付かないわたしは、ポケットに入れっぱなしのケータイがブルブルッと振動したのには気付いて、「あっ」と、ある約束を思い出した。

「それは、いったい誰ーーー、」

「伽耶(かや)さんですっ、同じ秘書課の先輩の!今日ごはん行く約束していたんだった!ーーって、専務?わーっ!!」

今度は顔色を真っ青にした専務が卒倒した。

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