龍神様の贄乙女
「本当に……もう帰れるあてはないのか?」
ややして、自分のすぐそばにひざをつく気配がして。
逞しい腕でふわりと抱き起こされた山女は、そのまま横抱きに抱え上げられて間近。男に見下ろされる。
「……はい」
至近距離から仰ぎ見た男の顔は、思わず息を呑んでしまうほどに整っていて、この上なく神々しかった。
年の頃は山女より十ばかり上に見えたが、彼が神龍であることを思えば、実際の年齢は分からない。
そうして、今まで山女が見てきたどんな男たちよりも凛々しく力強い上、優しさに満ち溢れていて頼り甲斐があるように思えた。
それでだろうか。
こんな状況なのに胸の奥がほわりと温かくなって、全身が熱を持ったのは。
山女は父親のことは余り覚えていないけれど、自分を心底心配して守ってくれる大人の男性と言うのは、存外彼のような感じなのかも知れない。
「そうか。ならば俺がお前を一人前になれるまでの間だけ面倒見てやろう。ただし――」
そこまで言うと、男は腕に抱いたままの山女からふいっと目を逸らして、ほんの一瞬だけ昏い目をする。
「お前が一人でやっていけると判断したら、俺は今度こそお前をここから追い出す。その時は元の里に戻るなり、別の里に混ざるなり好きにしろ。――良いな?」
言われて、山女はわけも分からずコクコクと頷いた。
今すぐ追い払われてしまうのでなければいい。
そう思いながら――。
ややして、自分のすぐそばにひざをつく気配がして。
逞しい腕でふわりと抱き起こされた山女は、そのまま横抱きに抱え上げられて間近。男に見下ろされる。
「……はい」
至近距離から仰ぎ見た男の顔は、思わず息を呑んでしまうほどに整っていて、この上なく神々しかった。
年の頃は山女より十ばかり上に見えたが、彼が神龍であることを思えば、実際の年齢は分からない。
そうして、今まで山女が見てきたどんな男たちよりも凛々しく力強い上、優しさに満ち溢れていて頼り甲斐があるように思えた。
それでだろうか。
こんな状況なのに胸の奥がほわりと温かくなって、全身が熱を持ったのは。
山女は父親のことは余り覚えていないけれど、自分を心底心配して守ってくれる大人の男性と言うのは、存外彼のような感じなのかも知れない。
「そうか。ならば俺がお前を一人前になれるまでの間だけ面倒見てやろう。ただし――」
そこまで言うと、男は腕に抱いたままの山女からふいっと目を逸らして、ほんの一瞬だけ昏い目をする。
「お前が一人でやっていけると判断したら、俺は今度こそお前をここから追い出す。その時は元の里に戻るなり、別の里に混ざるなり好きにしろ。――良いな?」
言われて、山女はわけも分からずコクコクと頷いた。
今すぐ追い払われてしまうのでなければいい。
そう思いながら――。