龍神様の贄乙女
「そんなにして頂かなくても……」

 (しん)の気遣いが、馴染みがなさ過ぎてどうしていいか分からない。

「子供がそんなに(かしこ)まらずともよい。俺はお前の面倒を見ると言っただろう? 約束したからにはきっちり責任は果たす。むしろ必要なものがあるなら遠慮なく言ってくれ。俺は女の事にはうといからな。言ってくれんと分かってやれん」

 畳み掛けるようにそう告げられた山女(やまめ)は、辰の心遣いの数々に圧倒されてただただ立ち尽くしてしまう。

 と、トロリと股の間から経血の流れ出る感覚がして、思わず足にギュッと力を込めた。

「あ、あの……もし可能なら、その……端切れ布を幾枚か頂けたら助かります」

 いつまでも婚礼衣装のままで居ることも窮屈に思えたけれど、それよりも今は血の穢れが外に漏れ出てしまうのを防ぐことが先決に思えて。

 足を固く閉じたままそわそわと辰を見上げたら、「承知した」とうなずかれた。

「しばし出てくるが、お前は決して外には出るな? 良いな?」

 ――出れば戻れなくなると念押しするように言い置いて扉を抜けて行く辰を見送ってから、山女はストンとその場にしりもちをついた。

(私、これからどうなるの?)

 そんなことを思いながら。
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