龍神様の贄乙女
(3)異形の男と、人間の女*
 山女(やまめ)(しん)の元へ嫁いで来て(身を寄せて)から(はや)六年余り。


 その間ずっと。辰は山女を残してしばしば何処かへ出かけて行っては、山女の必要としている物・使えそうな物を増やし続けている。
 そのため、今や山女のために用意された長さ約一五〇センチ(5尺ばかり)、幅・高さともに六〇センチ余り(2尺ほど)(きり)で作られた長持(ながもち)(木箱)の中は、彼女のための着物・夜具・調度品で(あふ)れ返っていた。

 六年前ここへ来てすぐの日、端切れを手渡してくれた辰に、山女が伏目がちにトイレ(せっちん)へ行きたいと話したら、事情を察してくれたのだろう。
 辰に、「一旦外へ出ようか」と言われた。
 山女の住んでいた里長の家でも雪隠(せっちん)は母屋から外に出た少し奥まったところにひっそりとあったし、里の皆が住む粗末な家々に至ってはそもそも個別に御不浄(ごふじょう)がなく、惣後架(そうこうか)と呼ばれる共同のトイレ(かわや)を利用する者が殆どだった。

(きっと主様の家とはいえ(かわや)は屋内にはないんだろうな)

 何気なくそう思ってから、山女はその考えを慌てて否定した。
 そもそも龍神である辰に、そのような場所など必要ないのではないかと思って。

 そこでふと厠の語源は川屋。つまり川に向けて用を足していたことから来ているのを思い出した山女だ。

 祠は川辺に祀られている。
 もしかしたら外で済ませろと言うことかも知れない。

 さすがにそれは恥ずかしい、とソワソワ落ち着かない山女だったけれど――。
< 17 / 53 >

この作品をシェア

pagetop