龍神様の贄乙女
(だから(しん)様、私がここへ婚礼衣装を着せられて献上されたあの日、私の事を里に追い返そうとなさったのかも)

 そう思い至ったら、チクンと胸の奥が痛んで。

 彼の恋路を邪魔しないためにも、一日も早く一人前になって辰の元を去らねばならないと思い続けて早数年。
 頭で思うのとは裏腹。自分に優しく接してくれる辰の傍を離れたくないという思いが山女(やまめ)の中で日増しに強くなっていった。

 ここへ山女が来たのは六年前。草木の上に霜がおり始める冬の走りの十一月(しもづき)のこと。
 川が凍てつく冬、花の匂いが立ち込める春、肌を焼く日差しの強い夏、山が錦に彩られる秋を六度ばかり過ぎて。

 七度目の冬と春を越え、十二歳になったばかりの冬に辰の元へやって来た山女も、今や十八歳。年頃の娘になっていた。

 肩口でおかっぱ(かむろ)に切り揃えられていた短い髪も、腰を越える長さになって、日本髪が()える程に伸びている。
 だけど山女はあえて結ったりせず、そのまま後ろへ流してゆるりと紐でひとつに束ねるだけに留めていた。

 何だか日本髪を結って(そうして)しまうと、大人になったと誇示してしまう様で躊躇われたから。
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