龍神様の贄乙女
 いつの間にか少女から大人の女性へと成長してしまった山女(やまめ)の身体つきの変化に、(しん)は戸惑うことが増えた。
 それを気取られないよう声を低めてみたけれど、背後の山女は一向に自分から離れる気配がなくて。

 子供にとっての六年が、自分にとってのそれとは流れ方が違うと言う事をすっかり失念してしまっていたのを心底後悔した辰だ。

 これは取り返しがつかなくなる前に、彼女を手放さなければいけない、と思って。

 山女が郷里から辰への供物――花嫁――として贈られて来た事は重々承知しているけれど……それでも尚その上で。
 辰は自分の欲望で山女の【人並みな】未来(しあわせ)を奪う様な真似だけはしたくないと常々思ってきた。


「でもっ。辰様に何かあったらって思ったら……私、気が気じゃないんです! だからお願いします。――行かないで下さい」

 なるべく穏やかな声音で――だがしっかりと諭したつもりだったのに、一向に引こうとしない山女に、辰は小さく吐息を落とすと、腰に回された彼女の細い腕を力づくで解いた。

 そうしてそのまま山女の方を向き直ったら、存外近くから涙の溜った(うる)み目で自分を見上げる山女と目が合ってしまった。
 その瞳は、今まで自分を父親のように慕って見上げてきた雛鳥の表情とは違って、紛れもなく〝女〟のそれだったから。
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