龍神様の贄乙女
(4)拒絶*
 (しん)が背中の(うろこ)山女(やまめ)に見せ、嵐の中ひとり外へ出て行ってしまった日。

 山女は辰が帰って来るまでのおよそ半日間、彼に取り残された時の状態のまま、半ば放心状態で板間に立ち尽くしていた。

 台風(のわき)が通り過ぎ、雨足が緩んだ頃に山女の待つ屋敷へ戻ってきた辰だったが――。


「山女……?」

 数刻前、板戸に手を掛け、振り返り様に見た時のまま微塵も動いていない様に見えた山女に心底驚かされた。

 何かあったのではないかと不安になって駆け寄ってみれば、山女が虚ろな目をして自分を見上げてくる。

「辰、様……?」

 だが、辰に両の(かいな)をグッと掴まれて顔を覗き込まれた途端、ポツンと辰の名を呼んでポロリと涙をこぼした。

「何故泣く?」

 辰は少し力を込めただけで今にも折れてしまいそうな山女の細腕を掴む手指に力を入れ過ぎないよう気遣いながら、困惑を隠せない。

女人(にょにん)の事はやはり理解し難い)

 そう思った辰に、山女が再度目の前にいる辰の存在を確認するみたいにポツリとこぼした。

「辰様……」

 その表情も声音も、〝女〟そのものだったから。
 辰は慌てて山女から手を離すと彼女に背を向けた。

「嵐の中一人にされて心細かったのか」
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