龍神様の贄乙女
「ん……っ」

 辰の手の動きに呼応するみたいに山女が艶めいた声を上げて頬を赤らめるから。
 辰はグッと奥歯を噛みしめてその色香に耐える。

 ふんわりと柔らかな山女の胸の膨らみに意識を持っていかれないよう気を付けながら目当ての品を探り当てると、それを山女の(ふところ)から抜き取った。
 その際、首に掛けられていた紐は本人に気付かれない様そっと断ち切ったから、山女は辰が(うろこ)入りの巾着を手にしたのを見るまで、それを奪われた事に気付いていなかったらしい。

「山女。元の里へ戻るのと別の里へ混ざるのと、どちらが良い? 選べ」

 巾着を(たもと)に仕舞いながら、彼女の事を冷ややかな視線で見下ろした辰に、山女が大きく瞳を見開く。

「辰様……っ、私っ」

 辰の言葉に、山女が彼に取り縋ろうとするのを片手を上げて制すると、
「約束しただろう? 俺がお前の面倒を見るのはお前が一人前になるまでの間だと――」
 辰は今まで山女に向けたことのない冷ややかな視線を彼女に向けると、彼女と出会って初めて。

 ――山女を完全に拒絶した。
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