龍神様の贄乙女
(5)後悔
山女を里へ送り届けた辰が祠を通じて邸内に戻ると、山女のために作った間仕切り用の襖の奥、彼女が使っていた桐の木箱が部屋の片隅にポツンと取り残されていた。
(無理にでも持たせるべきだったか)
そうすれば、身一つで戻るよりもきっと。貧しいあの里では山女への風当たりが弱まったはずだ。
辰が用意した調度品の多くは、かつての贄乙女達が龍神へ献上された折に里の親から持たされた物だった。
彼女達が使う必要のなくなったそれらは、あの里で親が娘に持たせるには値の張る品々ばかりだったから。
きっと贄として差し出す事になってしまった我が子に、最後にしてやれる親心。多少無理をしてでも用意した逸品ばかりだったのだろう。
正直山女のように婚礼衣装のみで遣わされた娘は居なかったから、辰は山女が「里へは帰れない」と訴えてきた時、柄にもなく手を差し伸べてしまったのだ。
傍に置いておけば、遅かれ早かれ手を出さずにはいられなかった。
だから半ば強引に山女の事を手放したのだ。
だが、山女を大切にしてくれるとは思えないあの里へ彼女を返した事は、果たして正解だったのだろうか。
それが山女自身の選択だったから辰は彼女の意思を尊重したのだけれど――。
(無理にでも持たせるべきだったか)
そうすれば、身一つで戻るよりもきっと。貧しいあの里では山女への風当たりが弱まったはずだ。
辰が用意した調度品の多くは、かつての贄乙女達が龍神へ献上された折に里の親から持たされた物だった。
彼女達が使う必要のなくなったそれらは、あの里で親が娘に持たせるには値の張る品々ばかりだったから。
きっと贄として差し出す事になってしまった我が子に、最後にしてやれる親心。多少無理をしてでも用意した逸品ばかりだったのだろう。
正直山女のように婚礼衣装のみで遣わされた娘は居なかったから、辰は山女が「里へは帰れない」と訴えてきた時、柄にもなく手を差し伸べてしまったのだ。
傍に置いておけば、遅かれ早かれ手を出さずにはいられなかった。
だから半ば強引に山女の事を手放したのだ。
だが、山女を大切にしてくれるとは思えないあの里へ彼女を返した事は、果たして正解だったのだろうか。
それが山女自身の選択だったから辰は彼女の意思を尊重したのだけれど――。