龍神様の贄乙女
 それなのに雨脚は強くなる一方で、いつまでも外にいるわけにはいきそうにない。

 辰は祠を通って屋敷内に彼女を連れ込むと、土間の所でお互いの着物や髪を濡らす水気を全て飛ばそうとして――その能力さえ著しく落ちている事に愕然とする。

 辰は一旦山女を床に横たえると、自身の着物を全て脱ぎ捨てて、少し躊躇いがち。グッと唇を噛みしめて山女の着物に手を掛けた。
 服が渇かせない以上、濡れた着物を着せたままなのは得策ではない。
 分かってはいるけれど、勝手に彼女の身ぐるみを剥がしてしまう事に、辰は少なからず抵抗を覚えた。

 山女の残していった長持(ながもち)の中から新しい着物を整えて着せかけた辰は、その後で自分も同じように体裁を整え直した。

 山女は未だはっきりと意識を取り戻してはいないものの、布団に寝かせた折、辰をぼんやり見上げて「辰様……?」とつぶやいた。
 それに優しく頷いて見せると、心底ホッとしたように微笑んで。

 それを見た辰は、山女の意識が戻ってくるのも時間の問題だろうと判断して、後ろ髪をひかれるような思いで一旦屋敷を後にする。

 山女に気を取られて川床に大切な玉を取り落としてしまった。

 あれを見つけなければ、大変なことになる。
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