龍神様の贄乙女
 それは贄の子とほぼ同い年回りだった辰にとって、とても衝撃的な出来事だった。

 自分にとっては名付けの親であり、育ての親でもある(きよ)だったけれど、龍神(かみ)とは本来かくも非情で恐ろしい存在なのだと、その光景を見て痛感させられて。

 清が大切そうに邸内の一角に溜め込んでいる女物の着物や装飾品の数々が、清がこれまでに(かて)としてきた贄乙女達(にえおとめたち)の遺品なのだと知ったのも、丁度その頃だった。


 清が辰との間に次世代の卵を遺して去ってから、初めて送られてきた贄が山女だった。
 何の装飾品も持たされず小さな(はこ)の中で震えていた山女を見て、もしこの子が清と出会っていたら、他の贄乙女らのようにそこにいた証――遺品――すら遺せず喰らわれていたのだなと思ったら不憫で堪らなくなった。

 清が辰に対してどういう感情を抱いて養育していたのかは分からないが、辰は山女と一緒に暮らすうち、自分に懐く山女の事をこの上なく愛しく思い始めて。
 そればかりか彼女が成長するにつ入れて劣情まで抱く様になってしまった時には、自分も清と同じではないかとゾッとしたものだ。

 きっと山女にとって辰は清と同じ。

 寝所に呼んで関係を迫れば断れようはずがない。
 辰しか頼る者のない山女はきっと、庇護者に対する慕情と、異性に対する恋情の区別すらつかないはずだ。
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