龍神様の贄乙女
 てっきりニョロリと身体の長い龍に輿(こし)ごと丸呑みにされるか、はたまた爬虫類のように冷たい目をした人型の者が(ふた)を開けるのだろうと思い込んでいた山女は、その余りに【普通な】見た目の男に正直拍子抜けして。

「……(ぬし)、様?」

 目の前の男を見上げたまま、身じろぎすら忘れてポカンと口を開けて(ほう)けてしまった。

「お前の言う主様とやらが何を指すのかは知らんが、〝そこの(ほこら)に棲む者〟という意味ならば俺がそれだ」

 ずっと。
 狭い空間で足を折り畳むようにして座っていたせいだろう。
 男に抱き上げられるようにして(かご)の外に立たされた途端、山女(やまめ)の身体がヨロリと(かし)いだ。

「あ……」

 思わず小さくつぶやいたと同時、

「おっと」

 山女の身体を両腕でサッと支えてくれてから、男が気遣わし気な声を掛けてくる。

「お前、何やら血の匂いがしているが、どこか怪我でもしているのか?」

 問われて山女は男の腕の中、慌ててフルフルと首を振る。

「申し訳ありませんっ。今朝……私、その……初めてのお馬になったばかりで、それで」

 お馬、と言うのは生理の隠語だ。いま山女が生理用品として身に着けているふんどしのような布の前垂れ部分が、馬の顔の形に似ていることが由来になっている。
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