元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「今回は、貴女に助けられました。ありがとうございます」

 表情は全く変わらず真顔のままだったけれど、声がいつもよりも柔らかく感じられて。

「ユリウス先生……」

 緊張が解けたのもあって涙が出そうになる。

「――で、でも先生」

 と、アンナが言いにくそうに声を上げた。
 ユリウス先生はわかっていますというふうに頷く。

「えぇ、花瓶を落としたのはどうやらまた別の人物のようですね」

 私は息を呑む。お蔭で涙も引っ込んでしまった。
 ――確かに、ミレーナ先生は花瓶の件は本当に何も知らなそうだった。
 アンナも神妙な顔をしていて。

「も、もしかしたら、本当に風で落ちてきただけなのかも?」
「……」
「……」

 そんな私の意見はふたりに無視されてしまった。
 と、ユリウス先生が中指で眼鏡の位置を直してから私に言った。

「そういうことですのでミス・クローチェ、貴女はこのまま油断せず大人しくしていてください」
「は、はい」
「絶対にひとりにはならないこと」
「はい!」
「それと、僕の部屋へはしばらく出入り禁止にします」
「は……え?」

 一瞬言われたことの意味が分からなくて呆然としてしまう。

(先生の部屋に、出入り禁止……?)

「えぇーーーー!?」

 夜のしじまに、私の情けない声が響き渡った。

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