元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
「花瓶? なんのこと?」
「!? ですから、ミレーナ先生が花瓶を」
「ミス・スペンサー! ……もう、そこまでで」
アンナを止めたのはユリウス先生だった。
ミレーナ先生はそんなふたりを見て首を傾げていたけれど、アンナがそれ以上何も言わないでいるとユリウス先生の方へと視線を向け静かに頭を下げた。
「ユリウス先生、この度はご迷惑をお掛けしました。先ほどの失礼な態度もお詫びしますわ。……せいぜい、ロリコン趣味と疑われないよう気を付けてくださいね」
(――ろ、ロリコン!?)
私のことを言っているのだと気付いてショックを受ける。
「ご安心を。そんな趣味かけらも持ち合わせていませんので」
「!?」
次いでユリウス先生の平然とした返しに更に複雑な気持ちになる。
それを聞いたミレーナ先生はふっと勝気に笑ってからくるりと背を向け、今度こそ行ってしまった。
「ミス・クローチェ」
呼ばれてぎくりと肩が震えてしまった。
ゆっくりとそちらを振り向くと、真顔でこちらを見つめるユリウス先生がいて、私は怒られる前にと勢いよく頭を下げた。
「すみませんでした!」
「ありがとうございました」
「……え?」
思ってもみなかった言葉が返ってきて、私はゆっくりと顔を上げる。
「こちらの忠告を無視して飛び出したこと自体は褒められたものではありませんが」
「う……」