元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「私はね、もう二度と君を失いたくはないんだ。だからこうして直接君を守りにきたんだよ」

 その真剣な眼差しと台詞に普通ならドキっと胸が高鳴るのかもしれない。
 でも彼の恐ろしさを知っている私は引きつった笑みを浮かべることしか出来なかった。
 この間とは違い、今は隣国の王子だと素性をさらしてこの場にいるのだ。あのときのような荒っぽい行動は取らないだろうと思いたいけれど……。

(そういえば、マルセルさんはその一件を知ってるってことなのかな)

 ちらりと見上げた彼は変わらず隙の無い佇まいでリュシアン様のうしろに控えていて。……ほんの少しだけ、あの頃のクラウスみたいだなと思ってしまった。

「でも守るって、ユリウス先生からってことなんだろ?」

 ラウルがそう言うと、リュシアン様の表情が急に険しくなった。

「ユリウス……今はそういう名だったな。そう、あいつだよ。私は姫の命を奪ったあいつを絶対に許さない」

 その言葉にちくりと胸の薔薇が痛んだ気がした。

「あいつが何を考えて今も君の傍にいるのかわからないけれど、私が絶対に守ってみせるからね」

 そうして彼はまたあの異質な笑みを浮かべたのだった。

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