元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。
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「大分早いし、もしかしたら先生まだ来ていないかもしれないわね」
「そうしたら来るまで廊下で待っててもいい?」
「勿論」
そんな会話をしながら先生の部屋の前に着き、アンナが扉をノックしてくれる。
するとすぐに「はい」と先生の声が返ってきて、そこで先ずほっと胸を撫でおろした。……考えうる一番最悪な事態は起こっていなかったみたいだ。
「スペンサーです。少しお時間いいですか?」
「どうぞ」
そうしてアンナが扉を開けてくれた。
相変わらず書物や書類の積み重なった机の向こうにユリウス先生の姿が見えて、それだけで胸のあたりがきゅうと苦しくなる。
先生はアンナの後ろに立つ私に気付くと椅子から立ち上がりこちらへ来てくれた。
「何かありましたか?」
扉に手を掛け潜めた声で訊かれ、アンナの視線を受けて私は首を振った。
「いえ。あの、リュシアン様のことで先生が心配になって……すみません、来てしまいました」